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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)408号 判決 1988年6月07日

第四〇八号事件控訴人・第四一四号事件被控訴人 (第一審原告・以下「第一審原告」という。) 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 藤本高志

第四〇八号事件被控訴人・第四一四号事件控訴人 (第一審被告・以下「第一審被告」という。) 甲野太郎

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 村山幸男

右訴訟復代理人弁護士 渡邉三樹男

主文

一  第一審原告の控訴及び第一審被告甲野太郎の控訴に基づき原判決主文第二ないし第四項を次のとおり変更する。

1  第一審被告甲野太郎は、第一審原告に対し、金二二〇〇万円及び内金一〇〇〇万円に対する昭和五九年七月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審被告乙山春子は、第一審原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和五九年七月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  第一審原告のその余の慰謝料請求を棄却する。

二  第一審被告乙山春子の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、第二審を通じ、第一審原告に生じた費用の五分の二と第一審被告甲野太郎に生じた費用を同被告の、第一審原告に生じた費用の五分の一と第一審被告乙山春子に生じた費用を同被告の、その余の第一審原告に生じた費用を同原告の、各負担とする。

四  第一項1のうち金一〇〇〇万円とその遅延損害金につき支払を命じた部分及び同2は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  第四〇八号事件

1  控訴の趣旨(請求の減縮)

(一) 原判決中主文第二、第三項を次のとおり変更する。

(1) 第一審被告甲野太郎(以下「太郎」という。)は、第一審原告に対し、金五〇〇〇万円及び内金二〇〇〇万円に対する昭和五九年七月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 第一審被告乙山春子(以下「乙山」という。)は、第一審原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和五九年七月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は第一、第二審とも第一審被告らの負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

二  第四一四号事件

1  控訴の趣旨

(一) 原判決中主文第二、第三項を取り消す。

(二) 右部分についての第一審原告の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、第二審とも第一審原告の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

本件各控訴を棄却する。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目裏八行目「を設立し」の次に「、代表取締役に就任し」を加え、同五枚目裏五行目「八〇〇〇万円」を「三〇〇〇万円」に改め、同六行目の記載を次のとおり改める。

「よって、第一審原告は、第一審被告太郎に対し離婚及び離婚にともなう財産分与(三〇〇〇万円の支払)の裁判並びに第一審被告ら各自に対し慰謝料として金二〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五九年七月二一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」

二  同七枚目裏一行目「八四歳」を「八六歳」に改める。

第三証拠関係《省略》

理由

一  第一審被告太郎も離婚の点については不服はなく、結局当審における争点は慰謝料及び財産分与に関する部分であるから、以下それらに限定して判断する。

二  当裁判所が、第一審原告と第一審被告太郎との婚姻関係が破綻し、別居するに至った経緯、それらに関して第一審被告乙山がどのように係わったか等について認定するところは、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決八枚目裏一〇行目冒頭から同一二枚目裏五行目末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決九枚目表八行目「五三年余」を「五五年余」に、同末行「一五年」を「一七年」にそれぞれ改める。

2  同一〇枚目表五行目「太郎は、」の次に「出生後間もな」くを加え、同一一枚目表二行目「(但し、」から同四行目「事実である。)」までを削除する。

3  同一一枚目表一〇行目、同裏五行目の各「適確」を「的確」に改め、同裏九行目「のである。」の次に「のみならず、前認定によると、それまでに第一審被告太郎は、第一審被告乙山と不貞の関係を一〇年以上にわたり続け、その間一女をもうけているのである。」を、同一〇行目「いずれにしても、」の次に「第一審原告と第一審被告太郎との婚姻関係が破綻したことについては、」をそれぞれ加える。

4  同一二枚目表一行目「ならない。」を「ならず、第一審被告太郎は第一審原告に対して、離婚にともなう慰謝料を支払わなければならない。」

5  同一二枚目表二行目「そして、」から同七行目「相当である。」までを以下のとおり改める。

「右1、2の認定事実、特にその婚姻歴、その間の第一審被告太郎の不貞関係、別居期間、婚姻破綻の原因は専ら第一審被告太郎側にあること、別居後の第一審原告に対する婚姻費用分担の実情、右分担額がその間の第一審被告太郎の収入に比し極めて低額であり、昭和五九年一月からはその支払いすら停止されたこと、いずれにしても第一審原告は見るべき資産とて形成できず、今後の住居すら安定しておらず、これまででもその子らの援助でどうやら過ごしてきたこと、さらに後記の財産分与の額等諸般の事情を考慮すると、第一審被告太郎は第一審原告に対し、離婚にともなう慰謝料として金一〇〇〇万円を支払うべきである。」

6  同一二枚目裏一行目「被告太郎」から「しても、」までを削除し、同三行目「侵害し」の次に「、そのため第一審原告らの婚姻関係を破綻させ」を加え、同四行目の各「三〇〇万円」をそれぞれ「五〇〇万円」に、同四、五行目「限度で」を「とこれに対する遅延損害金の限度で」にそれぞれ改める。

三  そこで財産分与について検討する。

1(一)  《証拠省略》並びに前認定の事実を総合すると、次の事実を認めることができ、他にこれを左右するだけの証拠はない。

第一審被告太郎は甲野電子の代表取締役として、昭和六〇年九月まで月収手取りで約九〇万円を得ていたが、同社の業績がはかばかしくないため、同年一〇月から役員報酬は零となり、代わりに、そのころから厚生年金の支給を受け、昭和六一年で一か月一八万三〇〇〇円を得ている。なお、そのほかに、昭和四二年ころから額は不明であるが在職年金を受けている。また第一審被告太郎は、甲野電子の株式を保有していたが、これを一七〇〇万円で第一審被告乙山に売却したうえ、その代金を資金不足の甲野電子に貸し付けたことにしている。そしてその返済金名目で、第一審被告太郎は同社から、何回か月五〇万円程度の金員を受領している。

(二)  その他の第一審被告太郎名義の資産については、第一審被告太郎自身、原審における本人尋問に際し、株式の所有を認めているものの、その社名、株数等は明らかでなく、そのほかには本件全証拠によっても、第一審被告太郎名義の資産のあることを確認することはできない。しかし、右認定報酬の額からしても、また前記認定の婚姻費用の分担の実情からしても、第一審被告太郎は何らかの形で資産を形成しているであろうと推認され、自身も原審における本人尋問において、資産そのものがあることを前提として、その額等は調べてみないと分からない旨供述している。

(三)  一方《証拠省略》に前記認定の事実を総合すると、別居後の第一審原告の生活状態、これまでの第一審被告太郎の婚姻費用分担の実情、資産、今後の見通し等前記認定事実の他に、第一審原告の決まった収入としては、昭和六一年現在で月額三万四〇〇〇円余の国民年金からのそれのみであること、婚姻費用分担(月額八万円)については家庭裁判所の調停が成立し、第一審被告太郎は昭和五九年一月以来これを支払ってはいないが、一応第一審原告としては債務名義を取得していること、もっとも、夫婦で形成した資産として、昭和二六年には、第一審被告太郎は野毛の土地を第一審原告名義で購入し、そこに建物を建て、家族と共に生活してきたが、右土地建物は昭和四五年に売却されてしまい、その代金は、当時業績不振であった甲野電子の資金に充てられたこと、以上の事実が認められる。

2(一)  ところで、第一審原告は、錦が丘の土地建物は実質第一審被告太郎の所有である旨主張するのに対し、第一審被告らは、それらは第一審被告乙山が自力で購入したとして、その資金の調達等について詳細に主張する。

そして、《証拠省略》によると、右売買代金の調達について、当時税務署に報告したとおり、丁原農協からの借入二〇〇〇万円のほか、義弟の丙川夏夫、実弟の乙山秋夫等からの各借入、その他自己資金等によるもので、また右各借入金の返済も、親からの贈与金もあったものの、所有不動産の売却代金及び自分の収入から返済したとの記載、供述がある。そして一方《証拠省略》など、右各供述、各記載に見合う書証が提出されている。

(二)  右各供述、各書証を子細に検討してみると、解約した生命保険、定期積金等の掛金、前記返済金等の出所が第一審被告乙山の収入によるものか疑う余地があり、むしろ専門家の指導のもとに第一審被告太郎の資産の相続対策も含めての税法上の措置が行われているのではないか、売買代金の出所もその関係から形を整えたのではないかとの疑いも禁じ得ない。しかし、それにしても、右(一)、(二)掲記の各証拠を勘案すると、仮に取得費用(売買代金のみならず借入金の返済も含めて)の一部を第一審被告太郎が出捐したとしても、むしろそれらは第一審被告乙山に贈与する趣旨ではなかったのかとも解されるし、その他本件全証拠によっても、錦が丘の住宅が一部にせよ現在実質第一審被告太郎の所有に属しているとまで認めることはできないというべきである。

3  以上によると、第一審原告は現在七五歳であり、離婚によって婚姻費用の分担分の支払を受けることもなくなり、相続権も失う反面、これから一〇年はあると推定される老後を、生活の不安に晒されながら生きることになりかねず、右期間に相当する生活費、特に《証拠省略》によると、昭和六一年当時で厚生年金からの収入のみを考慮しても第一審被告太郎の負担すべき婚姻費用分担額は一〇万円をやや下回る金額に達することが認められるところ、その扶養的要素や相続権を失うことを考慮すると、第一審被告太郎としては、その名義の不動産等はないが、前認定の収入、資産の状況等からして、第一審原告に対し、財産分与として金一二〇〇万円を支払うべきである。

四  してみると、第一審原告に対し、第一審被告太郎は二二〇〇万円及び内金一〇〇〇万円に対する本訴状送達の翌日である昭和五九年七月二一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、第一審被告乙山は金五〇〇万円(第一審被告太郎の支払う一〇〇〇万円の内の五〇〇万円と連帯債務関係)と前同様の遅延損害金をそれぞれ支払うべきである。

よって、第一審原告及び第一審被告太郎の控訴に基づき、原判決を右のように変更し、第一審被告乙山の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 越山安久 裁判官 鈴木經夫 裁判官山崎宏征は退官につき署名捺印できない。裁判長裁判官 越山安久)

<以下省略>

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